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鍛冶屋サキュバス奮闘記

定期更新型ネットゲーム『sicx Lives』に参加している、リムル(579)の日記帳です。 主に日記置き場ですが、お絵描きしてたり、何か呟いてたりもします。

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焔の月 4日目

 
 
「だから四の五言わずに押し倒せばいいって言ったじゃないの」
 
 
 あと数時間もすれば夜も明けるだろう時間の自室。
 旅支度をしながら事の顛末を語る僕を、エレナは呆れたように笑った。
 
 今夜こそはと挑んだ3人に、僕は呆気なくフラれた。
 鞭が好きかと訊いたフィオナと、ちょっと恥ずかしい儀式を持ちかけたナタリー。
 この2人は、少々変わった嗜好に僕が付いていけなかったと思えば諦めもついた。
 けれど、くすぐったがりやだと言ったアイリスの言葉だけが、
 何度考えてみても、どうにも納得できなかった。
 
「だって、アイリスの背中、真っ白だったもん・・・・・・。
 肩の後ろの2本のツノの真ん中にあるトサカの下のウロコの右なんて、
 絶対になかったよ・・・・・・」
 
「肩の後ろの2本のゴボウの真ん中にあるすね毛の下のロココ調の右ねぇ・・・・・・。
 ゴボウって時点でおかしいわよね。あと、女子ともあろう者がすね毛っていうのも」
 
「誰もそんなこと言ってないよ―――?!」
 
「え? あ、ごめんごめん。ええと、
 肩車して後ろ向きに乗り2本のゴボウを持った歌舞伎顔の男だったわよね」
 
「・・・・・・もう、いいよ・・・・・・」
 
 なんだかとんでもない進化を遂げてしまったアイリスの弱点に、
 僕は溜め息をつきながら荷造りを終えた。
 丈夫な麻の鞄に、着替えの服数着と、護身用武器に自作の大鎌。
 持って行けるものが少ないと言ってしまえばそれまでだけれど、
 思っていた以上に荷物は少なくて済んだ。
 
「それで? 明日にもこの村は出るわけ?」
 
「そのつもりでいるけどね」
 
 後ろから荷物を覗き込みながら、エレナは始終明るい声で言う。
 
「・・・・・・エレナ、実は僕が失敗して喜んでたりしない?」
 
「やだ、わかる?」
 
 なんとなく感じて投げかけた言葉に、エレナは悪びれなく微笑んでみせた。
 
「アタシはね、アンタがここで一生を過ごしそうな雰囲気がヤなの。
 ここで伴侶を見つけて一生人間として過ごす? 無理よ。
 アタシたちと人間じゃ寿命が全然違うもの」
 
「別に、ここに一生居るつもりなんてないよ。
 鍛冶に出会わせてくれた母さんや父さんには感謝してるし、
 必要とされている限りはここに居たいと思うけど・・・・・・」
 
「うそつき。この村の誰かと交わって男になるんでしょ?
 相手に子供ができたらどうするの?
 自分は父親にならないで、それでもずっとこの村に居続けるの?」
 
「ううぅ・・・・・・」
 
「まだ数ヶ月程度の付き合いだけどわかる。アンタにはムリよ」
 
 目を見つめられながらぴしゃりと言われ、僕は視線を落として口ごもった。
 確かに相手に子供ができたとすれば、僕はその母子と一生を過ごすことになるだろう。
 そして年老いて死ぬ家族を看取り、未だ老いることもない自分を見つめ、
 その時にしか分かりえない何かを思うに違いない。
 
「そもそもアタシたちは、一夜限りの出会いを一生続けて生きてく生き物だからね」
 
 どこかに居つこうとすること自体が間違っている。
 静かに、けれど、はっきりとした口調でエレナは言った。
 
「・・・・・・とりあえず、明日は・・・・・・もう、今日だけど、
 母さんと父さんに挨拶だけして、早めに出ようと思う」
 
「いいんじゃない?
 フッた翌日に相手が村を出るとなれば、その女たちも後味悪いでしょうし」
 
 余計なことはせずにちゃっちゃと出ましょうよと軽く言われ、僕は小さく拳を握った。
 
 本当にこれでいいのかな?
 むしろ、フラれたことはよかったのかな?
 外の世界には色んな人が居て、きっと自分に合う相手が見つかる。
 その時は、またこの村に戻ってこれる?
 この村で、母さんと父さんのもと、親子として過ごす?
 
「それにしても、娘として可愛がってきたアンタが消えて、
 一生オッサンのままのアンタが戻ってきたら、
 あのひとたちも一体どう思うんでしょうね」
 
 
 心を読んだかのようなエレナの言葉に、息が止まった。
 
 
 元々拾われた時も女性体だったし、2人と過ごすほとんどの時間が女性体だった。
 男として性別が確立した僕は、2人にとって望まない存在になるのだろうか?
 僕は、この村を出ると決めたならば、もう戻ってきてはいけない?
 
 
 そう至った考えに、頭が重く、身体が傾ぎそうになった瞬間だった。
 
 
「そうねー。娘として可愛がれなくなるのは、とってもとっても残念だわ」
 
「けれど、見た目が変わるだけで中身は一緒だろう? なら、大した問題ではないさ」
 
「か・・・・・・母さん、父さん!」
 
 
 しっかり閉まっていたはずの扉の前に、寝間着姿の母さんと父さんが立っていた。
 
 
「びびびびび、びっくりしたぁあ~!アタシまで姿見られちゃったじゃない!」
 
 声がかかるまで全く気付けなかった。どうやらそれはエレナも同じらしい。
 度肝を抜かしてベットから転げ落ちたエレナが、珍しく慌てた表情で叫んだ。
 
「ふふふ。あなたがいつもリムルの喋り相手になってくれていたコね。
 ありがとう。やっとご挨拶ができて嬉しいわ」
 
 にっこりと微笑みながら、母さんがエレナへと手を差し伸べる。
 
「リムル。わたしたちは、お前が男として一生を過ごすことになっても一向に構わない。
 お前が鍛冶仕事を楽しんでやってくれているのはわかっているし、
 昼間の小さな姿よりも、頑張って成長したその姿の方が理に適っているのもわかる」
 
 優しげな微笑みを浮かべた父さんが、僕の前まで来て、そう言った。
 
「でも、やるだけやって、後は知らぬフリというのは感心できないな。
 その時は、お嫁さんを連れて帰ってきなさい」
 
「そうよ。私たちは、あなたがまたここに帰ってきてくれるなら、それでいいわ。
 本当なら子供が産めない私たちの元へあなたが来てくれたこと、
 とても、とても感謝してる・・・・・・」 
 
「か、母さん、父さん・・・・・・」
 
 じんわりと、涙腺が緩むのがわかる。
 膜の張った揺らぐ視界の中で、僕は2人の顔をしっかりと目に焼き付けた。
 
「あ、ありがとう、母さん、父さん。
 僕、しばらくこの家を空けるけど、絶対また帰ってくるからっ」
 
「そうよ。出て行ったきり戻ってこないなんて、それこそ許さないわ」
 
「ああ。だが家を出る前に、父さん直伝の忍び足と扉明けの技を教えよう」
 
「びっくりしたでしょー? お父さんったら、昔は暗殺者だったのよ☆」
 
「今は母さんだけを狙う、愛の刺客・・・・・・だけどな・・・・・・」
 
「うふふふふふ!やぁだ、ダーリンったら!
 リムルもお客さんも居る前で恥ずかしいっ!」
 
「はははははは!リムル、お前もこんな母さんみたいな
 素敵な女性を射止めてくるんだぞっ」
 
「うふふふふふ!」
 
「はははははは!」
  
 
「・・・・・・あはははは」
 
  
 こうして夜は更けて行き、
 僕は母さんの作ってくれたお弁当と、父さん直伝の技を習得して村を出た。
 途中まで一緒だったエレナは、
 「あまりの甘ったるさに胸焼けがするから口直ししてくるわ」と言って、
 僕の向かう街とは別方向に消えていった。
 
 しばらく一緒に行動することとなる、エルモアという女性と、ネピアいう少女。
 そしてカオルという青年。キャプテン・ユーモラスと名乗る謎のヒーローとトリ。
 僕が彼女らと出会うことになるのは、もう、すぐ目の前の出来事だ。
 
 
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