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鍛冶屋サキュバス奮闘記

定期更新型ネットゲーム『sicx Lives』に参加している、リムル(579)の日記帳です。 主に日記置き場ですが、お絵描きしてたり、何か呟いてたりもします。

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焔の月 3日目

 
 
 僕は決意した。
 
 
 生まれてすぐこの村に来て、早2年。
 正確には、明後日でちょうど2年が経とうとしている。
 
 この2年間で、僕がアタックしたのは3人。
 内1人は、エレナにも話した村の住人ソフィア。
 そして残りの2人は、少し前にこの村へ訪れた旅人の姉妹だった。
 
 鍛冶屋という仕事をしているだけに、この家へ旅人が訪れてくる機会は多い。
 その時も、護身用の武器の手入れを頼まれ、一目惚れにも近いものを感じた。
 そして、いざ勝負に出てみれば、すでにその2人は恋仲であるという驚愕の事実。
 旅というのも、禁断の恋の成就を願う、逃避行の最中だったのだ。
 
「あの時は・・・・・・本当は性別ってあまり関係ないのかなって、
 ちょっと悟りを開きかけたっけ」
 
「何いきなり悟りとか言い出してんのよ。本当に仙人にでもなりたいわけ?」
 
「そ、そうじゃないよ!
 ちょっと決意を固めるに当たって、ただ思い返していただけで・・・・・・」
 
 僕は、ぼうっと眺めていた窓の方から、慌ててエレナへと向き直った。
 ベットの上が定位置になりつつあるエレナは、憮然とした顔でこちらを見ている。
 
 エレナは昨日に引き続き、日もまだ高いというのに僕の部屋を訪れていた。
 本来なら夜に活動する種族の僕らが、日差しの中で対談するというのもおかしな話だ。
 以前は数日に1度だった訪れが、ここひと月ほどで、ほぼ毎日に変わったことは、
 そろそろエレナもしびれを切らし始めているのかなと、ふと思った。
 
「昨日・・・・・・エレナにソフィアとオルトの話をしてから、自分なりに考えてみたんだ。
 僕がサキュバスだということも、一人前の鍛冶師として完全な男性体になりたいことも、
 この村の皆はどうせ知っているんだから、もう一度がんばってみるべきじゃないかって」
 
 そう。こんな、昼と夜で性別が変わる得体の知れないものを、
 家族として、そして村に受け入れてくれた皆に、僕はとても感謝している。
 正直に話してみよう。
 こんな僕で、こんな事情でも、僕と交わってくれる女性がいないかどうか。
 想い頂く性別にこそ、自分が望む形とは違いがあったけれど、
 ソフィアもオルトも、そういう意味で自分を好いてくれたことに変わりはないのだ。
 
 僕は、ベットの上で興味深げな眼差しをくれるエレナへ、拳を握って宣言した。
 
「エレナ!僕、今夜・・・・・・男になってくるよ!
 明後日でちょうど、ここに来て2年になるんだ。
 その前に勝負をするべきだと思うんだ!」
 
 エレナの顔は瞬時にして歓喜に彩られ、ベットの上で飛び跳ねる。
 
「よく言ったわ、リムル!それで?標的の目星はつけてるわけ?」
 
「ひょ、標的っていうか・・・・・・気になるひとは、何人か居るんだ。
 もしかしたら相手も僕のこと、そういう風に好きでいてくれてるかもしれないよね。
 きっと、僕に勇気が足りないだけなんだ。何もしないで諦めてたらダメだよね!」
 
「四の五言わずに押し倒せばいいのよ」

「無理無理無理無理無理!!
 2年間ご近所で顔合わせきてるのに、いきなりそんなの無理だから!
 そもそも僕は合意の上でしたいわけであって、一方的なのは望んでないよ」
 
「めんっどくさいわねー。それじゃぁ、マジで死ぬ気で落としてきなさいよ!」
 
「が、がんばってくる!」
 
 
 こうして僕は、夜もいい具合に更けた頃、単身、村の中央へと向かった。
 
 
 僕らの住む家は、鍛冶に携わる音や火の事情により、村の中央から少し離れた所にある。
 けれど、ほとんどの村人たちの家は、この村の中央に立ち並んでいるのだ。
 
「フィオナの家・・・・・・久しぶりだ」
 
 僕は、青い屋根の家の前で、ゆっくりと立ち止まった。
 
 フィオナは、よく調理道具の依頼に家を訪れる、栗毛が可愛い女性だ。
 普段は鳥に話し掛けるくらい、おっとりとした性格なのに、
 料理の話をする時は、とても嬉しそうにハツラツとする。
 
 そんな女性が未だ独りでいるのも不思議な気はするが、
 何故かこの村には家庭を持つ者はほとんどなく、独り身の住人が多かった。
 
「落ち着いて・・・・・・落ち着いて・・・・・・」
 
 先走る鼓動に言い聞かすように、深く、深く、深呼吸。
 緊張で震えそうな手を堅く結び、扉を軽く3回ノックした。
 
「あら・・・・・・リムル。夜に会うのは久しぶりね。どうしたの?」
 
 すぐに開いた扉からは、いつもどおりの笑顔が迎え入れてくれた。
 流れるような動作で着席するよう促され、座った途端にお茶が出てくる。
 
「あ、ありがとう、フィ、フィオナ。じじじ実は、今日は、そそそ、その・・・・・・」
 
 僕は恥ずかしさで俯きそうになる顔を必死で上げて、
 向かいに座ったフィオナの瞳を見つめながら、
 自分の思っていることを、ゆっくりと拙い言葉ながら、けれど、しっかりと話した。
 返ってきたのはしばらくの沈黙、そして―――――。
 
「・・・・・・わかったわ。
 私もリムルのことは、その、好き・・・・・・だし・・・・・・。
 私で協力できるなら・・・・・・」
 
「フィ、フィオナ・・・・・・!」
 
 僕は喜びの余りフィオナに飛びつきそうになった。
 けれど、そんな僕を恥らうしぐさでフィオナが制止する。
 
「でもね、その、する前にひとつ訊いておきたいことがあるの。
 リムル、あなた・・・・・・・・・・・・鞭で打たれるのは、好き?」
 
「ごめんなさい!!」
 
 紅潮した顔は一気に青ざめ、僕は慌てて家を飛び出した。
 
 
 
 ひとは見かけによらないものだ。
 僕は今も逸る心臓に手を当てながら、2軒離れたナタリーの家へ来ていた。
 
「あら、リムル。こんばんは。夜に会いに来てくれるなんて珍しいわね」
 
 扉を大きく開き、にっこりと奥へ誘ってくれるナタリーは、
 黒くて長い綺麗な髪と、赤い口元のほくろが色っぽい。
 
「こ、こんばんは、ナタリー。あ、あの、その、きょ、今日は・・・・・・」
 
 口ごもりつつもフィオナ同様に事情を説明し、しばらくの間、沈黙が落ちた。
 
「・・・・・・いいわ。他でもないリムルのお願いだもの、私、きいてあげたいわ」
 
「ナ、ナタリー!」
 
「でも私、こういうのって、神聖な儀式みたいなものだと思ってるの。
 だから、する前にその像の前でパンを尻にはさんで右手の指を鼻の穴に入れて
 左手でボクシングをしながら「いのちをだいじに」と叫んでベットに行きましょう」
 
「ごめんなさい!!」
 
 想像するだけで頬が熱くなった僕は、
 共に熱くなった目頭を押さえ、転げるように家を飛び出した。
 
 
 
 二重にしかけられた羞恥心を乗り越えるには、僕はまだ青すぎた。
 そう反省をした後、更に2軒離れたアイリスの家を訪れた。
 アイリスは肩までのフワフワな銀髪を揺らし、大きな垂れ目で僕を見ている。
 
「そ、そういう理由なら・・・・・・私、リムルのこと好きだし、協力してあげる」
 
「ア、アイリス!」
 
「で、でもねっ。私、すごく、くすぐったがりやで・・・・・・
 今から言うところだけは、絶対に触らないでほしいの」
 
 アイリスは赤らめた頬を隠すように、僕から背を向けて囁いた。
 背中が広く開いた服からは、大胆にも白い肌が露わになっており、
 否が応にも鼓動が跳ね上がる。
 
「あのね・・・・・・肩のうしろの2本のツノのまんなかにあるトサカの下のウロコの右なの」

「どこにも見えませんごめんなさい!!」
 
 僕は涙で霞む視界で勢いよく家を飛び出すと、脇目もふらずに走って帰り、
 突然の帰宅に驚くエレナを尻目に、旅支度を始めた。
 
 
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